SBIによる新生銀行へのTOBの背景がよくわからないので、筆者なりに調べてみた。
まずはTOB価格の妥当性だが、SBIは1株あたり2千円での買付を9月9日に表明している。
その日の新生銀行の株価終値は1,440円なので約39%のプレミアムをつけての買取提案だ。本日(10月22日)時点での新生銀行の指標は以下の通り。
買取価格2千円では想定PBRは0.47(新生の直近決算期末時点での1株当り純資産は4,284円)。言ってみればSBIは新生銀行をその価値の半額以下で買いたたく、ということになる。ちょっと安すぎないか? というのが直感的な印象。もっとも日本の主要銀行のPBRもそのくらいなので、これはSB)が買い叩いている、というよりも銀行側の怠慢を突かれているのかもしれない。
「みんかぶ」計算の理論株価は1,524円で、それから考えると一概にSBIが新生銀行を買い叩いている、というのは的はずれかもしれない。
理論株価の算出根拠説明はこちら
★SBIは新生銀行から何を得たいのか?
M&Aには「何かを得たい」という目的がある。メディアによると新生銀行傘下の消費者金融業務(レイク)が欲しいのでは、とか「第4のメガバンクを作りたい」等と報道されているがSBIの真意は今のところ不明だ。
★収益性の低い日本の銀行
日本の銀行のような預金者から集めたお金を他社(者)に貸し出して利ざやを稼ぐビジネスはアメリカではコマーシャルバンク(商業銀行)と呼ばれる。(ちなみに日本の証券会社のようなビジネスはインベストメント・バンクつまり投資銀行と呼ばれる)
そのビジネスの収益性だが日本は圧倒的に低い。新生銀行のROEは4%台、JPモルガンのROEは10%台。ウエルスファーゴはコロナの影響で昨年は冴えなかったが今年のROEは再び10%台に戻すと予想されている
下図 ウェルズファーゴのROEは今期は10%台に戻ると予想されている
日本の銀行がこんな収益性の低い理由は規制産業であり、簡単には利益の出そうな新規ビジネスに進出できないこと。
規制は新たな会社が銀行業に簡単には進出できないようにすることと同時に既存の銀行は新規ビジネスに参入するためには複雑かつ恣意的な規制当局の許可が必要で、これが結構ハードルが高い。
また伝統的な日本の銀行業務である貸出しもソーシャルレンディングの発達により駆逐されつつあるし、個人間、企業間の送金もPayPal等の進出により送金手数料が劇的に下がるなど、日本の銀行のビジネスはシュリンクし続けている。
そのようなシュリンク産業である銀行を地銀も含めて多数買収し傘下に収めてSBIは何をしたいのかが良く見えない。
★新生銀行は条件付き反対を表明
10月21日に新生銀行は条件付き反対を表明した。銀行側のリリースは全66ページにも渡る長文だが、
反対理由は主として2つ。
「買い付けに48%の上限がある場合、残る52%の株主の意向が反映されなくなる恐れがある。また買付価格が妥当ではない」としてTOBへの反対を決めた。